筑波大学蹴球部について
筑波大学蹴球部は、明治29年(1896年)に設立された高等師範学校フートボール部に起源を持ち、日本でもっとも歴史があるサッカークラブの一つである。監督の小井土正亮監督も筑波大学蹴球部の卒業生であり、2017年には小井土監督の下、天皇杯でJ1のベガルタ仙台を破る快挙を成し遂げた。現在(2020年度)、198名の部員が在籍しており、TOPチームからCチームまで6チームで編成されている。(筑波大学蹴球部ウェブサイト)
蹴球部を支える分析スタッフ
長きにわたり大学サッカー界のトップカテゴリに位置する筑波大学蹴球部を支える存在に分析スタッフがいる。蹴球部における分析は”映像分析”と”データ分析”の2種類あり、現在、分析業務専任は2名で担っている。通常の分析スタッフはデータか映像のどちらかを担当するが、情報学群2年の梨本健斗さんはどちらの分析も担当している。専任の分析担当以外に、筑波大学蹴球部にはパフォーマンスの向上を目的として、選手が兼任で分析やフィットネスなどの領域を担当するパフォーマンス局が存在する。パフォーマンス局にも映像およびデータ分析をおこなうグループがあり、それぞれ10数名ずつ携わっている。
小井土監督がJクラブでコーチだった際に、分析業務を担当していたこともあり、分析に関しては小井土監督から直接指導を受けることもあるという。もちろん分析スタッフは他大学にもいるが、筑波大学の場合は学部や入試方法(推薦/一般)に関係なく蹴球部に入部することができるので、多様な人材が集まり、結果として分析スタッフの充実に繋がっている。
梨本さんは、自身が高2年生の時に筑波大学の試合を観た際に分析スタッフの存在を知り、筑波大学を志望したそうだ。情報学群に所属しているため、プログラムを組んでデータ分析をすることは得意とのこと。しかし、データ分析だけではサッカーにおける分析の一側面にしかならず、データと映像を組み合わせて分析する必要があると考え、映像分析にも携わっているそうだ。
また、筑波大学蹴球部の分析では、ただ対戦相手の特徴を映像でまとめて発表するだけではなく、その映像を見た選手に何が残るか、選手がどう考えるか、どのような感情になるかも考えて映像のストーリーを構成する。このようなことは、アナライズ班の班員全員が考えて行うことだが、梨本さんは映像やGPSデータを管理する役職としてトレーニングの現場にいることで、トレーニングの雰囲気や選手・スタッフの考え方を良く知ることができ、分析にも役立っているという。
高柳昂平ヘッドコーチ兼フィジカルコーチと分析担当の梨本健斗さん
ドローンを導入した経緯と進化した点
では、分析に長けた筑波大学TOPチームがなぜドローンを活用し始めたのだろうか?蹴球部の高柳昂平ヘッドコーチ兼フィジカルコーチから紹介してもらったのがきっかけだったそうだ。それまでは、サッカー場に併設されているやぐらから撮影し、映像分析を行っていたが、ドローンを導入することにより戦術分析がより高度化したという。
梨本さんは、ドローンを導入して進化した点として以下の2点を挙げている。
1. 選手がいるべき位置を容易に確認することができるようになり、動きが遅い選手や、戦術に即した動きができていない選手などをすぐに把握できるようになった。
2. 従来のやぐらからの撮影は、離れた場所選手の位置や動きを正確に把握できていなかったが、ドローン空撮であれば相手選手の動きに対する自チームの選手の動き正確に把握できようになった。
やぐらからの分析映像
同部では、DJI Mavic Air 2を導入しているおり、「基本操作はそこまで難しくない」ものの、映像分析のための撮影に関しては通常の空撮とは違うこともあり、監督やコーチからフィードバックを受けながら、映像分析に必要な撮り方を研究しているそうだ。
/
筑波大学蹴球部、
ついにドローンを導入しました❗️
\練習や試合の分析に活用していく予定です。
映像分析のより一層の進化に期待です!✨ pic.twitter.com/HSKHULvNqk— ?筑波大学蹴球部(サッカー部)|一心 (@Tsukuba_soccer) August 21, 2020
筑波大学蹴球部で使用している実際のドローン映像
データ✖️映像を組み合わせた分析と結果の活用
データの面では主にGPSでデータを取得しており、走行距離だけでなくACWR(Acute Chronic Workload Ratio)というトレーニングの負荷を数値化した指標も使用している。ACWRなどの客観的なデータだけでなく選手の主観的なデータも参考にし、トレーニング、ニュートリションおよび起用などを決定しているそうだ。他にも走力測定など、選手の基本的な能力も数値化されており、様々な側面からデータを取得し分析することによって、監督・コーチおよびパフォーマンス局の意思決定のベースとなる情報を提供している。
戦術分析の面では、映像分析のツールとしてhudl(ハドル)を使用しているが、先述の通りデータ分析だけ、映像分析だけでは一側面からの分析になってしまうため、hudl sportscodeを使ってGPSデータと映像データを組み合わせて分析している。例えば、GPSで選手がスプリントした部分のデータを抜き出し、それを映像データと組み合わせることによって「どのような状況でスプリントが発生したのか」などデータだけではわからない示唆も得ることができるようになる。プロ・アマ問わず他の競技も含めてここまで高度な分析はおこなっている事例は多くなく、小井土監督を筆頭にした分析体制と様々なバックグラウンドを持つ部員がいるからこそ実現できている。* ACWRおよびhudl sportscodeでの分析については、梨本さんがプログラムを作りデータを加工した上で活用している。
hudlによる描画機能
GPSデータ(赤い部分はスプリント部分)
今後挑戦したいこと
先進的な分析方法を取り入れている筑波大学蹴球部だが、撮影した映像をトラッキングしてデータ分析できるようにしたいと、梨本さんは考えている。また、現在はコンディションニングデータはあるものの、戦術データはまだ不足しているため、ドローン以外の機器も活用しながら分析を高度化していきたいとのことである。梨本さんは、「分析は、チームが勝利するための1つの「手段」でしかなく「目的」ではない。そのため極論、分析担当が居なくても筑波大学蹴球部は活動することができる。その環境で自分が居る意義はチームの勝利に貢献する以外無い」と考えており、「闘っている選手や、未熟な自分にご指導下さる監督・コーチにチームが勝つための情報を与えることが出来る分析官になり、チームの活動を支えてくれる部員や応援して下さる様々な方に結果で恩返しできるチームに貢献する」ことを在学中の目標としている。また、梨本さんのようにスポーツ分析に携わる人達との繋がりも増やしたいとのことである。(梨本さんのTwitterアカウント)
ドローン利用に際する注意事項
筑波大学蹴球部ではMavic Air 2を利用していますが、人口密集地など航空法にて禁止されている場所に関しては、200g以上のドローンを飛行させるためには航空法が定める事前申請が必要です。また、飛行可能地域であっても公園や競技場に関しては別途許可申請が必要になる場合があるため事前に確認してください。なお、200g以上のドローンを飛行させられない場所については199gのMavic Miniの利用をご検討ください。しかし、Mavic Miniの場合も使用に関して管理者の許可が必要になる場合があるため、事前の確認は行ってください。(空港周辺および重要施設においては、199g以下のドローンも使用が禁止されています)
*飛行可能地域については、国土交通省のウェブサイトおよびDJIフライトマップをご確認ください。