DJI JAPANの映像ではお馴染みのアルマダス 吉田 泰行 氏。DJIのプロ向け空撮ドローン、「DJI OSMO RAW」といった手持ち型カメラに精通し、「RED WEAPON 8K」をはじめとするシネマカメラと「DJI RONIN」シリーズを組み合わせた数々の映像制作も手がけています。
「映像のプロが語る」と題した本シリーズでは、吉田氏に「DJI RONIN 2」について語っていただきます。
DJIから新たに発表されたジンバル「RONIN 2」。従来機種とは違い、プロ用の大型撮影機材を搭載するように設計された、全く新しいカテゴリーのジンバルである。
DJIは過去3年で既にRonin、Ronin-M、Ronin-MXの3種類のジンバルを発売しており、Ronin2で4機種目のジンバルとなる。Roninシリーズに慣れていないユーザーだと、ジンバル同士の違いが分かりにくいかもしれない。そこでまず旧型の3モデルとRonin 2の違いをおさらいし、その後に具体的な活用事例などを紹介していきたい。
スペック
ペイロード | 本体重量 | |
Ronin | 7.2kg | 4.2kg |
Ronin-M | 3.6kg | 2.3kg |
Ronin-MX | 4.5kg | 2.7kg |
Ronin 2 | 13.6kg | 約8.0kg(バッテリーなど付属品を全て取り付けた状態) |
DJI Ronin
DJIからリリースされた順番に、Roninシリーズの違いに触れていきたい。2014年に発表された初代ジンバルRoninは革命的な存在であった。
当時発売されていたFreeflyのMovi M5やMovi M10に比べ、本体重量では倍近く重たいものの、バッテリーの持続時間や搭載可能なカメラの重量では勝り、何と言っても値段が1/5という驚異的な安さでジンバルの普及に大きく貢献した。ペイロードは7.2kgと大型のカメラも無理なく搭載でき、オプションの拡張アームを使うと大型のシネズームなどの搭載も可能だ。

しかしイベント撮影など撮影環境に制約がある場所では必ずしも大型のRoninが最適なオプションとは言えず、また長時間手持ちでの撮影には重量的に限界があった。そのため翌2015年に小型、軽量化が図られたRonin-Mが発表された。
DJI Ronin-M
Ronin-Mは本体重量が2.3kgまで削減され、手持ちでも長時間の撮影が可能だ。ペイロードは3.6kgと半減したものの、Canon 1DXなどを含め大型の一眼レフの搭載が可能で、運用に若干の制限があるものの、FS-7、C100、C300、URSA Miniなどの業務用のカメラの搭載も可能だ。
価格も現在では118,000円まで下がり、個人のクリエーターでも十分購入可能なレンジまで値下げがされた。Ronin-Mの登場により、ジンバルの普及がこれまで以上に進み、映像制作の現場ではごく当たり前にジンバルを見るようになった。

DJI Ronin-MX
翌2016年、DJIは全く新しいカテゴリーのジンバルとしてRonin-MXを発表した。カメラケージの大きさやペイロードなど基本的なスペックはRonin-Mとそれほど変わらないが、一番の大きな違いは空撮にも対応した点である。
従来機種のRonin、Ronin-Mはカメラを下方の1点だけでロックしているため、ドローンに装着すると機体からの振動や空気抵抗により映像がぶれる場合が多い。その点を解消するためRonin-MXでは上下2点でカメラをガッチリとロックするように構造が変更された。またバッテリーが2個搭載可能で、一つはジンバル給電用、もう一つはカメラの給電用として使用可能だ。REDカメラの場合は、実際にRED Epicで検証した所50分弱の給電が可能であった。
なおペイロードは4.5kgとRonin-Mから向上しているものの2点注意が必要な点がある。まずカメラケージのサイズはRonin-Mと全く一緒であるため、大型カメラの搭載やシネマレンズなどの装着は困難である。またカメラケージ上方にバッテリーを差し込む構造となったため、C100、C300など背が高いカメラを搭載するとビューファインダーがバッテリープレートと干渉し運用が難しくなった。

地上用としてRonin-MXを使用する場合、プロ用大型機材の使用が困難であるため、後継機が待ち望まれていた。そこで登場したのがRonin 2である。
DJI Ronin 2
初めに断らせて頂くと、Ronin 2は価格帯、性能、重量の面から全てのユーザーやワンオペでの運用を想定しているクリエーターには不向きな機材である。しかしプロ用としては非常に洗練されており、従来機種で不満であった点が大きく改善されている。以下改良点並びに注意点を記載したい。
改良点1:ペイロードとカメラケージ
Ronin 2はRoninの8倍も強力なモーターを搭載しているため、ペイロードが13.6kgと2倍近く向上している。
これによりシネマカメラとシネズームのような組み合わせでも十分に対応可能だ。またカメラケージもRonin-MXに比べるとかなり大型化されているため、積めないカメラはほぼないと考えている。例えばC300 MKIIは拡張アーム無しのRoninでは、カメラから突き出ているビューファインダーが当たってしまう問題があったが、Ronin 2では全く問題なく、標準形態で搭載が可能だ。
更に従来機種ではペイロード以内にシステムを組んでもバランスが取れないため、実質的最大ペイロードは標準タイプのRoninで5kg前後、Ronin-MXで3kg前後であった。それ以上の重量のシステムも搭載可能であるが、カメラケージの大きさが制約となり、カメラのバランスが取れない場合が多い。一方Ronin 2はカメラケージが大型化した恩恵で、ペイロードをフルに生かした運用が可能だ。

改良点2:ハイパワーモーター
ジンバルにおいてカメラバランスは非常に重要である。バランスが取れていないと、振動が入りやすくなり、モーターの過熱など様々な問題を引き起こす。従来機種では、シビアにバランスを取らないとすぐに振動が入ってしまい、現場でレンズなどを交換してしまうと準備に時間がかかる問題があった。
しかしRonin 2はモーターが8倍も強力になったため力技で押し切る事ができる。また繰り出し式のズームレンズなどで画角を調整すると、当然重心が変わってしまうが、それぐらいの重量バランスの変化ではRonin 2はビクともしない。
バランスを取ることはRonin 2でも重要な点であるのは変わらないが、運用の柔軟性は従来機種よりもはるかに向上している。
改良点3:給電
私がメインで運用しているREDは燃費が非常に悪い。C300 MKIIは45Wのバッテリー(BP-A30=14.4Vx3100mAh)で2時間の撮影を行えるがREDはその4倍以上の出力のIDXのDuo190を使っても1時間半程度でバッテリー交換が必要となってくる。Ronin-MXではREDなどのカメラへの給電が可能になったが給電時間が50分程度に限られていた。
一方Ronin 2はInspire 2のTB50バッテリーを2個使いジンバル本体、カメラ、カメラアクセサリーへの給電が可能である。2018年で20周年を迎える北海道の音楽フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL」では、RED Weapon 8K、DJI Focus、Odyssey 7Q +に同時給電して使用したが2時間以上問題なく撮影ができた。
REDの燃費の悪さを考えると非常に良い成績である。またバッテリー残量が少ない場合、ホットスワップで電源を落とすことなく1個ずつバッテリーを脱着が可能だ。REDのように立ち上がりに時間がかかるカメラでは、電源を落とさずに運用できるメリットは非常に大きい。
また、Ronin 2の本体には至る所に「これでもか」という位給電ポートがあり、利便性が高く、給電に困ることはまずないであろう。

改良点4:信頼性の向上
Ronin 2は材質やデザインが従来機種よりもはるかに洗練されており、ケーブルが内部に収納されている。従来機種では外に露出しているケーブルを、誤って断線させてしまう事があったがRonin 2ではその心配がない。
また振動制御の技術に更に磨きがかかっており、ヘリコプターなど微振動が激しい現場でも設定さえしっかりと行えばかなり振動が抑制される。ドリフトなど激しいGがかかる現場では正直Ronin-MXなどのジンバルはパワー不足であるが、モーターが強力なRonin 2であればこうした現場でも確実に撮影ができ信頼性が向上している。

注意点1:重量
Ronin 2は改良点も多いが進化の代償も存在する。まず一つ目は重量である。初代Roninの4.2kgに比べ、本体、ハンドルバー、バッテリー2個を差すとRonin 2の重量は約8.0kgとなり倍近くなっている。この点Ronin 2はまさしくジンバル界の横綱である。
カメラ本体の重量を加算すると、システム重量が15kg前後になるため手持ちでの撮影は実質的に不可能で、リグが必要となる。一眼レフなど小型のカメラでの撮影を考えているユーザーはRonin 2を使わない方が良いであろう。

注意点2:サイズ
Ronin 2は大型のカメラを搭載できるが、当然ながら本体が大型化している。イベント撮影や狭い現場の撮影では、接触の可能性が高いのであまり使わない方が賢明であろう。
注意点3:ワンオペでの使用が難しい。
本体の重量が増し、機材が大型化したため、ワンオペでの運用が非常に難しい。ただし想定される利用シーンが、現場に複数のスタッフがいる大規模な撮影現場であるためこの点はあまり問題にならないであろう。
まとめ
Ronin 2は従来のRoninシリーズとは全く一線を画した製品である。プロ用として完全に再設計され、どんな大型カメラでも飲み込んでしまう力強いパワーがある。本体の材質やデザインも刷新され、まさにプロ用と呼ぶにふさわしいジンバルである。
重量や、サイズなど注意すべき点があるものの、元々ワンオペの小型用ジンバルとしては設計されていないのでそれほど問題にはならないであろう。従来機種よりもかなり値段は張ってしまうが、動作は非常にスムーズでジンバルとしての完成度はかなり高い。
次回の記事では実際の撮影現場での活用事例を紹介したい。
吉田 泰行(Yasuyuki Yoshida)
株式会社アルマダス 代表取締役
愛知県豊橋市生まれ。カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で政治とロシア語を学び、卒業後は航空自衛隊に3年間所属。独立後、愛知県に映像制作会社アルマダスを立ち上げる。DJI Inspire 2 をはじめとしたドローン撮影、4Kデジタルシネマカメラを活用した4Kデジタルコンテンツ制作、水中撮影など多様な撮影を行なっている。