前回の記事に続いて、今回はMavic 2 zoomの方をレビューしたいと思います。早速なんですが結論的な話をしますと、zoomはズームでした。これに尽きます。
一般のカメラにおいては「ズームができる」というのはほとんど当たり前のことだと思っていたので、proとzoomと二種類の機種が発表された時「いやまあ、ドローンだし、空から寄れば2倍のズームはいらないんじゃない?」と思っていたんです。それはとんでもない間違いでした。ドローンにおいてズームができるということがこれほど役に立つとは思ってもいなかった。
そしてまた、このズームという機能によって、動画なんて普段はほぼ興味もなければ撮りもしない私のような写真家でさえ、「動画撮ってみたい!」と思わせる表現の幅を作り出しています。その当たりも含めてインプレッションをお届けしたいと思います。
1.イメージングシステム
まずは一本動画を見ていただきましょう
クイックショットの機能の一つである「サークル」を使って撮影したものです。実はProの方でも同時に撮影を試みたんですが、この場所でProではどうしても撮れない理由がありました。二枚の写真を比較するとその理由がお伝えできるかもしれません。
ほぼ同じ写真、同じ場所から撮影しています。そしてこの二枚の写真の直後に、上の動画を撮影しました。違いがおわかりになるでしょうか。
1枚めは24mmで、2枚めは29mmで撮影しています。ほんの僅かな違いで、表現としてはあまり大きな差があるようには見えません。ですが、非常に大きな差を動画では生み出します。それは、水面上で飛ぶドローンの羽の風力が海面を揺らす様が、24mmだと映り込んでしまうんです。
ドローンにズームが搭載された時、多くの人は「野生生物などに安全に寄れる」と思ったかもしれません。あるいは、「人に危険ではない距離で撮影できる」とか「建築物を傷つける危険性が減る」とか。私もまずはそれを考えました。
ですが、実際に使ってみてわかったんですが、ドローンの風速というのは結構大きくて、上の様なリフレクションの写真や動画においては、その風速が画面内の被写体に影響を及ぼすんです。ですが、ズームでわずかに「寄る」だけで、その海面が乱れてしまうシーンをカット出来てしまう。これは驚きでした。
Proのほうが映像を撮る根本的な「画質」の面は優位に立ちますが、Zoomは「寄れる」というただこの一点のみで、Proではどうしても影響をカットできないドローン自体の「風速」から逃げることができるんです。これには驚きました。二倍の倍率によって望遠による圧縮効果も見込めるので、表現方法自体が多様化します。つまりProとは違う方向で、Zoomは使い手に「表現力」の幅を与えてくれるのです。
2.ドリーズームは革命的
上のような部分は「写真家的目線」からのズームの利点でしたが、勿論今回、皆さんが注目されているズームのもたらす表現は、ドリーズームであることは了解しています。これはやはり革命的というにふさわしいです。三本ほど動画を見ていただきましょう。
元々はヒッチコックの映画「めまい」で使用された「ヴァーティゴ・エフェクト」が、このドリーズームの原点だと言われていますが、その効果は一目瞭然。「めまい効果」とは上手くいったもので、動画の中でこのカットが効果的に使われれば、それだけで人の目を引きつける一瞬を作り出すことが出来ます。
しかもMavic 2 Zoomの素晴らしいことは、このドリーズームをクイックショット機能からわずかワンタッチで呼び出せるという点です。通常ドリーズームは、dollyの名前の通り、「滑車」の上にカメラを載せて、そのカメラが動くのと逆方向にズームをするという極めて準備も撮影も煩雑かつ困難な手法です。
私も実は、このMavic 2 Zoomを使って手動でドリーズームをやってみましたが、よほどの修練を積まない限り、まともなドリーズームにならないことを痛感するほど難しい操作でした。それがワンタッチで上の動画が生成できる。滑車も技術も必要ない状態で作り出せるんです。動画メインの皆さんがこれをどんな風に使われるのか、これから本当に楽しみです。
3.画質を侮ってはいけない
上の方で「画質はProに一歩譲る」と書きましたが、それは「Zoomが劣る」ということでは決して無いんです。横からの太陽を浴びて強烈なコントラストがついている場所で撮影したこの一枚などは、Zoomの持っているカメラの表現力の確かさを十全に示しています。
影のコントラストもそうなんですが、何よりも色のグラデーションの処理が美しい。エメラルドグリーンからコバルトブルーへと変化していくさまが、わずか1/2.3インチのセンサーとは思えない豊かな階調で捉えられています。多分Proで同じショットを撮って並べても、等倍拡大して並べないとその違いはわからないレベルの仕上がりです。
この真俯瞰から捉えた一枚は、各々の色合いのきっちりとした分離が魅力的です。まるでおもちゃの国を撮ったような印象。特にソファーの微妙なスカイブルーとレゴブロックのようなプール部分の青色などが、実にきっちり取り込まれている。屋根の上の細かい赤錆も見事なものです。
4.再度、やはりズーム
先程上の方でズームの利点を二つ述べましたが、やはりこの機種が帰ってくるのはこの「ズームによる表現力」なんですね。それはこういう場面でも活かされます。
あとほんの数十秒で太陽が沈みます。急いで飛ばしてなんとか捉えようとしますが、いいなと思った地点に来てシャッターを切った時、24mmでは随分広いことに気づきました。わずか二倍の距離、ドローンなら一瞬で寄っていける距離ですが、時間との戦いです。
見る間に沈む太陽をズームで上手く寄って切った時の安心感!ワンショットを逃すと永遠に「その後」は来ない風景写真撮影にとっては、ズームは何物にも代えがたい機能なんです。上の24mmで撮影した写真は、あまりにも寂しい空間が多い一枚を、ズーム機能が救ってくれました。
5.まとめ
本格的な「画質」で勝負をかけてきたProと比べると、Zoomは幾分ライトな「便利さ」や、ドリーズームの様な表現上の「ギミック」で発表以来耳目を集めて来たように思いますが、実際に使ってみて、ズームが搭載されることによる表現の可能性の広さに驚愕しました。
今回わずか二週間ほどの撮影で、ズームに助けられたシーンはあまりにも多く、実際私がこの2機種をいざ買うとなったら、今の時点ではむしろ悩みが深くなります。正直なところ「禁断の二台体制・・・」と思ってしまう程に、この両機種ではできることが違うんですね。
なのでProとZoom、値段的には違いがあるんですが、実際には「上位機種・下位機種」の区別ではなくて、あくまでも表現の指向性が違う別のボディであると考えたほうが良さそうです。DJIもなんとも罪なことをしてくれたものですね。
(記事内のすべての写真・動画は、自治体や管理者さまの許諾を得て撮影しています。)
別所 隆弘 (Takashiro Bessho)
滋賀県在住。フォトグラファー。アメリカ文学研究者。National Geographicが主催する「Nature Photographer of the Year」の「Aerials(空撮部門)」2位やニッコールフォトコンテストなど、国内外の写真賞を多数受賞。写真と文学の融合を試みるのが最近の関心事。